コールセンターのテレワーク化に向けて取り組むべきこと

  • 新型コロナウイルスの影響もあり、働き方の多様化が進んでいるなか、コンタクトセンター、コールセンターでもテレワーク(在宅勤務)への注目が集まっています。この記事では今のテレワークの実態とコールセンターにおいて、テレワークのメリット・デメリットや働き方についてもご紹介したいと思います。 またコールセンターでテレワーク導入に向けて、企業で取り組むべきことについても説明していきます。

    テレワークとは

    テレワークとは、「tele = 遠距離の」と「work = 働く」をあわせた造語で、「情報通信技術(IT)を活用し、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」(総務省)のことです。

    総務省ではさらに、働く場所によってテレワークの形態を3つに分類しています。一般企業が行う企業雇用型として、「自宅で働くテレワーク(在宅勤務)」「移動中や移動の合間に行うモバイルワーク」「サテライトオフィスやコワーキングスペース等を使用する施設利用型テレワーク」。そのほかにも個人事業主や小規模事業者が行う自営型として「SOHO」「内職副業型勤務」と分類しています。「在宅勤務」「遠隔勤務」「リモートワーク」などと呼ぶ場合もあります。

    今回は紹介したテレワークのなかでコールセンターと最も関連深い在宅勤務を中心にテレワークの現状と、コールセンターにおけるテレワークの現状についてお伝えしていきます。

    テレワークの現状

    最初に企業のテレワークの現状を見ていきます。総務省「通信利用動向調査」によれば、企業のテレワーク導入率は[令和2年度]は47.5%となり、[前年度]20%から倍増しています。今後導入予定がある企業も含めれば6割近くに達しています。この結果は新型コロナウイルス感染拡大により、大手企業を中心に在宅勤務によるテレワークが普及し、従来の働く場所に変化が出ていることを表しています。

    次にコールセンターにおけるテレワークの現状を見ていきます。一般社団法人日本コールセンター協会「2021年度コールセンター企業 実態調査」によれば、コールセンター企業における在宅テレコミュニケーターの採用割合は33%にとどまっています。2020年の28%から比べれば5%ほど上がっていますが、日本全体から比べた時には、まだ低水準となっています。セキュリティ上の問題やオペレーターの労務管理を理由に、導入が難しいと答えている企業が多く、在宅勤務が低水準となっている原因となります。

    しかし、世界規模での新型コロナウイルスの感染拡大影響により、企業の考え方が変わってきているのは事実です。日本のさまざまな業界でリモートへ切り替わる中、コールセンター業界でも、それまで難しいとされてきた「コールセンターのリモート(在宅)化」が行われています。

    テレワークのメリット・デメリット

    次に新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、コールセンターがテレワーク化されたことにより、明らかになってきたリモートのメリット・デメリットについてご紹介していきます。

    メリット

    人材確保

    コールセンターの時給は、他の職種から比べた時に比較的高水準だと言われています。未経験や特別な資格がなくとも時給1200円程度もらえるには、いくつかの理由があります。その中のひとつとして、コールセンターが恒常的に人材不足に悩んできたという経緯があります。コールセンターは離職率も高く、常に人材確保に労力を注いでいます。またコールセンターの運営には、電話回線やパソコンなどさまざまなシステムが必要不可欠ですが、何よりも「オペレーター」の存在によって成り立っています。最近ではオペレーターの仕事がチャットボットに切り替わっていることもありますが、現時点では「オペレーター」の存在が運営に欠かせないことは間違いありません。将来、オペレーターが出社できなくなった場合を想定した、リスク管理が必要です。

    例えば、2011年の東日本大震災発生時には、多くのコンタクトセンターが運営不可能な状況に陥りました。 リモート化することで、オペレーターが出社できない状況のときにでも、分散化することによりコールセンターの対応が可能となります。また優秀なスタッフを確保することは、あらゆる企業の課題となっています。家庭に介護する対象や小さなお子さんがいる方、短時間しか勤務できない方、遠隔地に住む方にとっても在宅勤務が可能となれば、人材確保の幅が広がります。

    コスト削減

    コールセンターをリモート化できれば、大幅なコスト削減が期待できるでしょう。コールセンターでは、これまで施設をどこに設置するかが大きな問題となってきました。テナント使用料が抑えられ、働き手が確保できる場所を探す必要がありました。賃料が安く、少し不便な立地では、人材を確保するための広告費がかかります。働き手の近く構えようとすれば、人気が高く賃料も相当な額になるでしょう。そのため、コールセンターの立地は「不動産のコスト」と「人材の確保のしやすさ」のバランスで決まります。

    また設備投資の面でもコスト削減が期待できます。オフィスがあればデスクやいす、パーテーション、光熱費が必要となりますが、リモート化できればこれらの費用は不要です。また、ペンや用紙といった備品類や、交通費の支給も不要になります。コールセンター運営に関わるさまざまな経費も削減できるでしょう。

    事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)

    2011年に発生した東日本大震災で、多くのコールセンターが休業に追い込まれました。オペレーターが出勤することができず、運営していくことが困難な状況となりました。また日本は地震や台風などの災害が多く、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)が重視されるようになりました。BCP対策とは、企業が緊急事態時に事業継続するための手段を決めておく計画の事です。近年では、温暖化の影響により台風、豪雨の発生が頻発しています。テロ攻撃や情報漏洩事故など、企業はあらゆる緊急事態が起きた際に、事業を継続・早期復旧させる必要があります。コールセンターでは、損害を最小限に抑えつつ、業務継続するために多拠点化、分散化など必要な対応策が考えられてきました。

    今回のコロナウイルスの影響により、コールセンターがリモート化したことでBCP問題を解決する要因ともなりました。分散化やアウトソーシングにかけるコストが解消され、オペレーターは電車やバスに乗って、通勤する必要がなくなりました。1か所に人が集まることがないので、災害リスクへ備えることができます。企業にとっても、働き手によっても大きなメリットとなります。

    デメリット

    セキュリティ対策

    これまでコールセンターのリモート化で最も懸念されてきたのが、セキュリティ対策です。コールセンターでは多くの顧客情報を取り扱っているので、厳重なセキュリティ管理が求められます。しかし、オペレーター一人ひとりが在宅で自宅のPCを使って勤務する場合、オフィスと同様なセキュリティ機能を発揮することは難しいとされてきました。

    情報漏洩は企業にとって、顧客からの信用を損なう大きな損害となります。セキュリティの課題解決のためには、情報の暗号化技術やシンクライアント環境にするなどのシステム導入を検討する必要があります。またオペレーターの権限管理を行うことも有効な手段です。フローを見直し、権限管理を行うことで、オペレーターが操作できる範囲を狭めることで、情報漏洩を防ぐこともできます。セキュリティ対策はコールセンターをリモート化するうえで、今後も重要な課題と言えるでしょう。

    応対品質

    これまでのコールセンターでは、オペレーターに困ったことがあれば、手を挙げればスーパーバイザーが席を回って状況を確認して支援することができました。しかし、リモートを検討するときに、オペレーターをリアルタイムでサポートすることが難しくなると考えられてきました。応対内容のミスや対応しきれないクレームが起きた時に、周囲に監督する人がいなければ、オペレーターの精神的な負担が大きくなります。応対品質が下がれば、顧客満足度に影響を及ぼしかねません。またオペレーターの定着率や育成といった面でも停滞する可能性があるでしょう。

    このような問題を解決するため、リアルタイムでモニタリングし、オペレーターが困っているときに「手上げ転送機能」を活用することで、スーパーバイザーに通知することができるようになりました。スーパーバイザーからオペレーターへ適切なFAQや応対に必要な情報をチャットで送ることができ、リモートでも迅速なアドバイスができる機能もあります。

    コミュニケーション不足

    コールセンターのリモート化により、オペレーター同士のコミュニケーション不足は避けられないでしょう。自宅で勤務するほうが、より集中することができ成果を生み出すことができる人材ならば、問題ありませんが、ほとんどの方が上長とのエスカレーション不足により、孤独感を感じ、心理的負担が増えるのではないでしょうか。

    オペレーターがモチベーションを保ち続けられるように、環境を整備することが必要となります。定期的な研修やミーティング、面談などを設け、正当な人事評価制度の構築が求められます。明確な勤務体制を整備することも有効な手段です。労働時間の出退勤、休憩を管理し、コミュニケーション取ることで、オペレーターが孤独感を感じることないよう細かなケアを行うと良いでしょう。

    まとめ

    今回は、近年増えてきた在宅コールセンターの現状とリモート化によるメリット、デメリットを整理してきました。 新型コロナウイルス感染拡大を機に「人材確保」「コスト削減」「BCP対策」の観点からコールセンターのリモート化が選択肢の一つとして選ばれるようになりました。これまでは情報漏洩などのリスクから、普及することはありませんでしたが、それぞれのデメリットに対してリスクヘッジすることでリモート化を要望する声が増えています。全くリスクが存在しないわけではありませんが、個々の課題に対して適切に対策し、慎重に運用することで可能となりました。企業としては初めての試みで、慎重な検討が必要となるとは思いますが、感染リスクを最小化し、オペレーターのワークライフバランスの観点からも導入を進めてみてはいかがでしょうか。